07 難関を突破せよ

Mission07 難関を突破せよ


 灰色の雲の下、荒涼とした平原の南端。
そこに、2匹のポケモンが立つ。
探検隊ウィンズのメンバー、グレアとイオンだ。
彼らは、真実を見つけようとするウィンズのリーダー・レイの旅に同行。
しかし旅の途中で、リーダーのレイと、メンバーのルナと離れてしまっていた。
そして、2匹だけでこの平原を訪れた――

 「ココハ、エレキ平原カ」
「知ってるのか?」
「文字通リ、でんきタイプノポケモンガ多イ平原ラシイ。危険ナ場所デ、探検隊モアマリ近ヅカナイ」
イオンの説明を受け、グレアが聞き返す。
「ここを通れば、氷雪の霊峰まで行けるか?」
「オソラク近道ニナル」
「よし、突破するぞ」
グレアは即断した。
「でんきタイプ相手なら、俺達は有利に戦える。
 多少危険なら逆に好都合だ。追っ手を振り切るぞ!いいな、イオン!」
一瞬、イオンは考えを巡らせる。
だがこの作戦は、無謀に見えて合理的だ――
探検隊ウィンズの頭脳であるイオンは、そう判断した。
「ワカッタ。行コウ!」

 2匹のポケモンが、エレキ平原を縦断する。
彼らに襲いかかる大勢の野生ポケモンを
ある時は倒し、ある時は振り切って進んでいく。
グレアが行く手に立ちふさがる相手に殴りかかり、
その後ろからイオンは飛び道具を惜しみなく撃つ。
互いに相方を補い合う、息の合ったコンビの姿がそこにあった。
「イオン、ついてこれてるか?」
目の前のメリープに向けて骨を振り下ろしながら、グレアはパートナーに訊いた。
「大丈夫ダ」
真上のメガヤンマを撃ち落としたイオンが答える。
その一方で、グレアは遠くのエレブーに骨を投げ当てる。
「なかなか野生ポケモンの多い平原だな。だが遊んでいる暇はない」
イオンは無言のまま、エレブーの後ろにいたキリンリキにソニックブームを放つ。
それを合図に、グレアが一直線に走り出す。
イオンが続く。
眼前に広がるエレキ平原を、野生ポケモンの群れをかき分け進んでいく。
北へ向かって。

 しばらくして。
「なんだかポケモンが出てこないな」
先ほどはたくさんいた野生ポケモンが、今は全然見当たらない。
だが、イオンは一片の油断も見せず、周囲を警戒している。
次の瞬間、激しい雷鳴が鳴り響く!
「ギャオオオオォォ!!」
さらに咆哮が続く。2匹は、同時に上を向いた。
そこには、黄色と黒の翼を持つ、大きな鳥が飛んでいる。
雷を発しながら、2匹の前にゆっくりと降りてきた。
「わが名はサンダー!雷の司!お前達、何の用だ!!」
サンダーは、強い威圧感を放っている。
「ここを通り、氷雪の霊峰に行く。今は急を要するから、このエレキ平原を縦断してきたんだ」
大声を出すサンダーとは対照的に、グレアは静かに話す。
「おのれ、そのために平原のポケモン達を襲ったのか!」
確かに攻撃はした。だが、必要以上には戦いを仕掛けなかった――
そう言い返そうとした。しかしサンダーの次の言葉の方が早かった。
「わが同胞を傷つけた罪は重い!お前たちに向けてやろう。」
一瞬の間。
「わが怒りを!!」

言うが早いか、閃光がグレアとイオンに向けて伸びる。
グレアは素早くイオンの前に出ると、骨を掲げて閃光を受け止めた。
「ぬっ……」
「伝説のポケモンでも、相性には勝てないようだな」
たじろくサンダーに対し、強気のグレア。
その後ろから、イオンがソニックブームを撃つ。
スピードの乗った風の刃がサンダーを切り刻む……
と思われたその時、サンダーの目が光る!
そして、ソニックブームを見事にかわした。
「みきりか!?」
今度は、グレアが真上に骨を投げ上げる。
サンダーはこれも回避すると、翼を大きく動かす!
「これは、どうだ!」
真空波が一帯に広がる。
意外な攻撃に、2匹の回避は間に合わなかった。
「うわ……っと!」
威力はそれほどでもなかった。2匹は態勢を立て直す。
「きりばらいか……」
「マサカ攻撃ニ使ウトハ」
またしても、地上に雷が降り注ぐ。
グレアのひらいしんがそれを受け止める。
だが、次の瞬間には2匹の視界からサンダーが消えていた。
「どこに行った?」
その時、自分達の足元に広がる大地が、いやに暗いことに気づく。
「上!」
一瞬のうちに、サンダーに真上につかれていた。
鋭いくちばしを突き出し、グレアに向けて垂直に降下していく!
避けられない。命中したらただではすまない。グレアは観念しかけた――

 しかし、くちばしがグレアに届くことはなかった。
代わりに何かが衝突した音が聞こえてきた。
グレアは上を見上げる。
なんと、イオンがサンダーの垂直降下を受け止めていた!
「イオン……」
これまた相性のおかげか、イオンはほとんどノーダメージに近かった。
すかさずグレアが飛びかかる。
だがサンダーは再びみきりを発動し、上空に飛び退く。
「俺達の攻撃は見切るってか……。さて、どうすれば倒せるかな」
グレアが、イオンにしか聞こえない声で言う。
「ボクニ考エガアル。協力シテクレルカ?」
ただ1匹だけの仲間の言葉に、グレアは意を決した。
サンダーに向けて、正面から立ち向かう!
飛びかかる大鳥をかわし、骨の一撃を見舞う。
反転したサンダーが、真空波を放つ。
小さな戦士は正面から受け止める。
間髪入れず、サンダーがくちばしを突き出す。
グレアは飛び上がってかわし、相方の前に着地する。
黄色い影は軌道を変え、なおも標的を狙って飛びかかる。
――これを待っていた。
グレアは小さく笑うと、真上にジャンプした。
後ろにはイオンがいる。両腕にいっぱいの光を集めて。
完全にスピードに乗るサンダーは、イオンに向けて一直線だ。
イオンが、腕を前に向けた。
「ラスターカノン!!!」
集めた光を発射する!
銀色に輝く極太の光線が、至近距離でサンダーの巨体を貫いた。
「ギャオオオオォォォォオオオオォォォォ!!!」
この世のものとは思えないほどの絶叫が、エレキ平原全土に広がる。
そして……
雷を司る黄色の大鳥は、ついに地に堕ちた。
2匹の小さなポケモン達によって。
「よし、急ぐぞ!」
そのポケモン達は、再びエレキ平原を走り出した。


 一方その頃……
探検隊ウィンズの、もう2匹のメンバーであるレイとルナは
雪の降り積もる森に差し掛かっていた。
「寒いね……」
ルナが、ぽつりと言った。
「ああ、寒い」
レイがすぐに言葉を返す。
空からは、絶え間なく雪が降っている。
その雪と冷たい風によって、森の木々は凍りついていた。
幻想的な風景だった。
レイとルナは、目の前に広がる景色に見とれていた。
しかし次の瞬間、2匹は同時に後ろを振り返る。
何かの気配を感じたのだ。
だがその気配の主は、黒い残像を残して消えた。
「なんだったのかしら?」
「さあ……?」

 2匹は、森の中に小さな横穴を見つけた。
疲れがたまってきたため、ここで少し休むことにした。
寒いことに変わりはないが、風がほとんど来ないだけでもかなり違う。
レイが電熱でつけた火の近くに、2匹の小さなポケモンが静かに座っている。
「ふう……」
レイは大きく息をついた。吐き出した息が瞬時に白に色づく。
「滝壺の洞窟から、かなり歩いたよね。グレアとイオン、大丈夫かな……」
ルナが言葉を投げかける。
「大丈夫だろう。あの2匹はそんなに弱くないし、目的地だってわかってる」
しばらく、互いに無言の状態が続いた。
そして、ルナが再び話す。
「この先もっと寒くなるよね……。氷雪の霊峰までたどり着けるのか、不安になってきちゃった」
ちょっと考えて、レイが言葉を返す。
「ここまで来たなら、行くしかないさ。僕がなんとかしてみせる」
強気な台詞に、ルナはレイの方を見る。
「もともと僕の問題だ。巻き込んだからには、僕がルナを……
 いや、みんなを守らなければ」
「ま、巻き込んだなんて……、私は私が、レイについて行きたかったからそうしただけで……」
言葉に詰まるルナをよそに、レイは聞こえないようにつぶやいた。
「……ありがとう」

 さらに時は過ぎて。
ふと気付くと、外は雪が止んでいる。
しかし、レイは横穴の入り口に、見慣れないポケモンの姿を確認した。
黒い角と灰色の体毛、4本足……といった特徴のポケモンだ。
不意に、そのポケモンが叫んだ。
「出ろ!早くここを出ろ!!」
同時に、レイは黒いポケモンによって横穴から引っ張り出された。
その手でルナを引きずることは忘れなかった。
こうして3匹のポケモンが横穴から出た。その時!
さっきまでいた横穴の中から、轟音が響いてくるではないか!
音の正体は、雪崩だった。
横穴は一瞬にして崩れ去った。

「ひえー……」
ルナは開いた口がふさがらなかった。
「あ、ありがとう」
レイは、自分達を助けた黒いポケモンにそういった。
「いい。私はアブソルだ」
アブソル。それがこの黒いポケモンの正体。
どうやら知っていたらしく、ルナが反応する。
「アブソルって確か、現れると災いが起きるとかいわれてる?えーと、その逆?」
「逆が正解だ。ちなみに、名前はカオスという」
レイとルナも、それぞれ名乗る。
「さっきの雪崩も、自然災害のひとつだ。ここもかなり影響されている」
自分達としては信じたくないのだが、
その自然災害と、レイがポケモンになったことが関係しているかもしれないと思うと
否が応にも気分が沈んでいくレイとルナだった。
「ところで、お前達はどうしてここに?」
カオスの問いに、レイは正直に答えた。
キュウコン伝説のこと、自分達の目的のことなどを。
「そうか……」
カオスは大地いっぱいに広がる樹氷を仰ぎ見たが、すぐにレイとルナに向き直る。
「この森で迷うと危険だ。私が案内しよう」
突拍子もない申し出。
「お前達は災害を止めるために動いているのだろう?ならば目的は同じだ。
 私の力を貸そう」
頼るもののないレイ達にしてみれば、願ってもないことだった。
答えは決まっている。
「ありがとう、カオス」
「わかった、それじゃよろしく」

 カオスの案内で、一行は樹氷の森を進んでいく。
森を抜けると、またしても白い大地が目の前に広がる。
雪は降っていない。雪原の上空に、太陽が見える。
照りつける太陽の光が地面の氷によって反射し、一帯がまぶしく光っている……
そんな風景だった。
突然、雪原の輝きが強くなった!
続いて、氷色の大きな鳥が舞い降りる。
「ギャァアアアアア!!」
光に加えて音まで反射する。うるささにルナは一瞬ひるんでしまった。
「私はフリーザー!氷の使い!」
冷気をまとう大鳥は、伝説の鳥ポケモンの1種――フリーザーだった。
「むっ、お前はアブソルではないか。まさかまた災害が起こるとでもいうのか!?」
フリーザーはカオスに目を留め、そう言った。
カオスは何も言わない。
「この冷たい森の空気が……温かくなってきている。雪崩もそのせいだ」
フリーザーの語る言葉に、レイとルナは返す言葉がない。
――これで温かいだなんて……。
「そうだ。災害はこうしている間にも悪化していく。
 私はそれを止めるために、この者たちとともに行動しているのだ。
 フリーザー。ここを通してもらいたい」
氷の使いであるフリーザーを前にしても、カオスは全く臆していない。
対して、フリーザーは目の前にいる3匹のポケモン達を見つめる。
信ずるに値するかどうか、確かめるために。
しかし、レイとルナにとっては緊張の極みである。
一歩間違えれば何をされるかわからない。
とにかく、ここで目をそらしてはいけない。わかるのはそれだけだった。

 やがて、フリーザーの方から目線を外した。
「……わかった。お前達を信じよう」
その言葉に、レイとルナの表情が緩んだ。
だが、まだ安心するには早かった。
「ただし!」
いきなりフリーザーが翼を広げた。
「ひゃあ!?」
2匹とも飛び上がって驚く。
「これ以上災害が広がらぬよう、食い止めるのだ。頼んだぞ!」
そう言いながら、フリーザーは樹氷の向こうに飛び去っていった。

 「あー……どうなることかと思った……」
ルナは体の力が抜けてしまった。
レイがルナを助け起こしているのを見つつ、カオスは冷静に言葉を放つ。
「お前達、急ぐぞ。一刻も早く氷雪の霊峰に向かう。
 このままでは、よくないことが起こる……。私の本能が、そう告げているのだ」

 こうして、彼らもまた氷雪の霊峰を目指し
目の前に広がる雪原を進んでいった。
果たして、そこでレイを待ち受ける運命とは……




Mission07は、前半と後半に分けて書きました。
前半は書きたかった話を大体書けたが、後半は押しが足りなかったかもしれない。
その辺は今後に回していく。
ちなみに、サブタイトルはDQ8のボス戦BGMより。

2008.03.27 wrote
2008.04.16 updated



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